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ピアノ販売店の役割

■北大路魯山人の料理観

お客様へのプレゼン用ツールとして、また部屋に溢れ返る
ピアノ関連資料をデータベース化すべく、iPadとスキャナを
購入してみました。使いこなせるよう頑張らねば・・・。
 
i文庫というアプリをダウンロードしたところ、著作権の消滅
した文学作品が電子書籍化されて好きに閲覧できるので、
仕事の移動中など空いた時間に重宝させて貰っています。

その中に、芸術家で美食家だった北大路魯山人が著した
料理に関するエッセイを見つけました。これがピアノ選びに
相通ずる深い内容でして、幾つか紹介させて頂きます。

・料理人=ピアノ調律師
・料理=調律師によって調整されたピアノ
・材料=調整する前の素材としてのピアノ
と置き換えてみると、なかなか面白い読み物になります。
私はいちいち腑に落ちたのですが、皆様は如何でしょうか。

ピアノ販売に携わる人間に求められる役割とは何なのか、
魯山人先生の料理観と共に考えてみましょう。

①先ずは材料(ピアノ)選び

料理のよしあしは、まず材料のよしあしいかんによる。材料の選択次第である。
だから、材料の眼利きが肝心である。これは今まであまりいわれなかったが、
従来の料理論のエアポケットだ。 
魯山人の食卓』(グルメ文庫)~味覚馬鹿~より

ピアノ選びにとりましても、この目利きの部分がエアポケットになっています。
メーカーの現状でもご説明したように、ピアノは個体差が存在する特殊な製品です。
とりわけグランドピアノやヨーロッパ製ピアノといった高級なピアノを検討する場合、
そのお客様に最良の一台を選んで届けるのは販売店の責務といって良いでしょう。

これは寿司職人が魚河岸に行って、鮮魚を見極めて仕入れるのにも似ています。
ネタが悪ければ、どんな名人といえども食通を唸らせる握りを作ることは困難。
調理する以前に、美味しい食材を見立てる目利きこそ外せないのです。   

楽器のよしあしについても、価格やブランドで選んでおけば安心という訳ではありません。
1000万円の価値を見出せないピアノ、100万円でも値打ちだと思えるピアノ、
それを見分けるためには、魯山人が言うところの心の目、数多い経験の目が問われます。 

専門的な判断が難しいユーザーのために良質なピアノを厳選して提供すること。
安く売ることよりも、そうした真摯な姿勢こそが本来の顧客サービスではないでしょうか。 

「料理の美味不味は、十中九まで材料の質の選択にあり」と解してよい。
いうなら種を選ぶことに、ベストを尽くすべきである。
『魯山人の美食手帖』(グルメ文庫)~材料か料理か~より

②知識よりも感性を養うべし

まぐろはいつ頃、どこで獲れたのが美味いとか、たいはどうして食べるべきであるとか
いうようなことを知っているのが、いかにも料理の通人のごとく思われている。
だが料理はそんなものではない。ほんとうに美味いものを食べたいと思う食通は、
まず飯を吟味しなくてはならぬ。
 
『魯山人の食卓』(グルメ文庫)~味覚馬鹿~より

魯山人は美食は物知りになることではないと喝破しています。
同じく、ピアノの知識をもつこと、良いピアノを体感的に知ることは似て非なるものです。

店頭接客を方々で観察していますと、その楽器固有の特長、音楽性が語られるよりも、
「どのように作られた」とか「何で作られている」といった商品紹介に偏っている気がします。
日頃ピアノを弾いたり聴いたりする習慣のない営業マンにありがちな説明ですね。
 
知識や持論について熱弁をふるっても、本人の感動や経験に基づいた言葉が無ければ、
意識レベルの高いピアノファンからしてみると、話の内容がどことなく浅薄に感じてしまうもの。 
ピアノの魅力と価値を伝えるべきプロにしては余りにお粗末では?と思うときがあります。

一方、ピアノを購入する皆様も、いつの間にか情報や知識の収集が目的化していませんか。
ネットに書き込まれる他人の意見、口コミに判断を求めたくなる心情はよく分かりますが、
本当に良いピアノを入手したいなら、試弾を重ねて、自らの感性を磨く努力が必要でしょう。
そのためにも販売店には、もっとピアノに触れられる環境、雰囲気作りを期待したいところです。

ほんとうにものの味がわかるためには、あくまで食ってみなければならない。
ずっとつづけて食っているうちに、必ず一度はその食品がいやになる。一種の飽きが来る。
この飽きが来た時になって、初めてそのものの味がはっきり分るものだ。

■NEXT・・・

~料理は相手を診断せよ~
自分の料理を他人に無理強いしてはなりません。相手をよく考慮して、あたかも医者が
患者を診断して投薬するごとく、料理も相手に適するものでなくてはなりません。
そこに苦心が要るのです。