・音の均質性

■購入前に全ての音を聴いてみること

前述の通り、ピアノごとに音やタッチは異なります。
その選択につきましては、弾き手の“好み”になります。
“良し悪し”というよりも“好き嫌い”といった次元の問題ですね。
ではさらに踏み込んでみて、演奏する上で「良い」ピアノの定義とは何なのでしょうか。

ピアニストのアルフレッド・ブレンデルは、ピアノに対する評価について、
「すべてのレジスターと音量水準の点で、ダイナミックスが均一でなければならない」
と語っています。(岡崎昭子訳『楽想のひととき』(音楽の友社)より)

分かりやすく皆さんご存知の「カエルの歌」を例にとってみましょう。
『ドレミファミレド(かえるのうたが)』と同じ力で各音を弾いているはずなのに
『ドファド(かが)』と、特定の音だけ異質な響き、違う音量だと如何ですか?
気持ち悪いような、メロディーが寸断されるような・・・おそらく聴く人も弾く人も変に感じるはずです。

実はこうした音量・音質の凹凸をピアニストはとても気にされます。
いくら各指を緻密にコントロールしても、イメージした音と違う訳ですから当然ですよね。
 
思い描く通りに気持ちよく演奏できるピアノの条件を考えるならば、
各音の質感が不自然なく揃っていること、あるいは隣り合った音の粒立ちが連なっていること
大前提と言ってもよいでしょう。

■ピアノの音質チェック 実践編

では実際にショールームでピアノの音の均一性・均質性をテストする方法をご紹介します。

ピアノを弾ける方はムラのないレガートで半音階を弾きながら、全ての音に注意を払って聴いてみましょう。
(ちなみにこれはブレンデルが上記の著書で推奨している方法です)
このときピアノメゾフォルテぐらいの音量がオススメなのですが、まずは各音を弾く指の強さが均一であるように心がけて下さい。

自分は弾けないからなぁ…、という方には別の手段もあります。
弾く指を1本に決めて、力を入れ過ぎず、適度な音量で鍵盤を押しましょう
そして左端の低音からひとつずつ順番に右隣の鍵盤を鳴らしながら、右端の高音まで聴いてみます。「カエルの歌」のように、ときには反復して音を比較してみるのも非常に効果的ですよ。

ひとつひとつの鍵盤を一定の強さで叩くことならば、コツさえ覚えればどなたでも出来るはずです。滑らかに連なる半音階を弾くことはプロの演奏に近い領域になりますので、むしろ同一の指でポンポンと音を鳴らすチェックの方がすぐに馴染めるかもしれません。

※グランドピアノの場合、ソフト(左)ペダルを使用した状態の音質も同じ要領でチェックしましょう。

New! 2014.3.2
 PETROF P118D1 整音の様子をご紹介♪
購入前に必ず全ての音を確認しておくこと滑らかな半音階を弾くのは難しいのです…
リズミカルに同じ強さで鍵盤を鳴らしてみること

■もしも気になった音があれば遠慮なく質問しましょう!

このように各音をきちんと意識して確認してみますと、
(あれ?この音だけキンキン響く、この音はモコモコしてる。このピアノって不良品??)
と怪しいピアノがあるかもしれません。
しかし早合点はしないで下さい。それは欠陥ではなく調律・調整が充分ではない可能性も考えられます。

好みのピアノに気になる音を発見しましたら、まずお店の方に訊いてみましょう。
調律師にその場で調律・調整をして修正して貰えたら理想的ですね。
なにせ高額な買い物です。後悔しないように遠慮なく質問、要望をぶつけてみてはいかがでしょうか。

☆POINT
「たとえ曲が演奏できなくても、88鍵全ての音をチェックしてからピアノを判断しましょう」
                               Next 「店を訪問するときの心得」

■CASE STUDY ② ピアノという楽器の不完全性

某楽器店で高級ピアノを新品購入されたお客様のエピソードをひとつご紹介します。
その方はショールームのピアノを試弾した際に、幾つかの音に混じる金属的な響きが気になって質問したところ、「調整したら直りますから」と販売スタッフに言われてそのピアノの購入を決めたそうです。
ところが納品後に調律師がいくら手を入れても一向に直らず・・・。
しまいには返品するしないのクレームにまで発展したそうです。

そのピアノや調律師の仕事内容に関しては実際に確認していないのでコメントを控えます。私が一番に問題と感じたのは、販売スタッフが安易に調整で直る、と説明した点です。何とかして売りたい気持ちは分かりますが、余りにお粗末でプロ意識に欠ける対応に思います。
正直なところ音の凸凹を整える調律師の立場からすると、調律・調整で音質のバラツキを全て解消することが困難な場合も存在します。

よりダイナミックな音量、音響を求めて現代のピアノはフレームや弦等に金属素材を多用するようになりました。それゆえ音を鳴らしたときに時折その接点で金属的な響きが発生するケースがあります。
調律師は異質感が目立たないように技術を駆使(整音作業)して対処するのですが、ピアノの出来によってはそれにも限界が・・・。

ユーザーの皆様にはぜひピアノという楽器の繊細さと構造的な特性をご理解頂けると助かります。音に敏感であると自負される方、じっくり一音ずつ吟味して調律師と相談しながらピアノを選んでみては??

低音域には銅線を巻いたピアノ弦を使用。きらびやかな響きを増すために高音域には金属フレームで直接ピアノ弦を抑えるカポダストロ・バー方式が採用される現在のピアノ設計。いかに音を均質に揃えるか調律師の腕の見せ所です。