新品ピアノと中古ピアノ、どちらがオススメですか?
お客様からよく尋ねられるご質問です。
中古ピアノの利点はまず何といっても手頃な価格で手に入ること。
子供がいつまで続けるか分からないので高価な新品はちょっと手が出ないなぁ・・・という方が中古ピアノを求めるケースが近年とても増えています。確かに新品の半額ほどで入手可能なので魅力的である一方、中古ピアノの良し悪しが判別できないから不安、誰が使ったのか分からないピアノは嫌、新しい方が安心!と迷わず新品を選ぶ方もいらっしゃいます。
各ピアノ店のポリシーによっても勧められるピアノが異なるので困惑するお客様も多いのではないでしょうか。
良い中古ピアノを見分けるポイントについては既に他のHPでも多く書かれています。たとえば・・・
・外装や内部のクリーニングはもちろん弦やピンなど金属パーツのサビ・汚れが除去されていること
・アクションや鍵盤が基準の範囲内で弾きやすく均一に調整されていること
・フェルト・クロスなど消耗する各部品を適切に処置もしくは交換修理されていること
などなど。
全くその通りです。
ただ正直なところ以上に挙げたような作業はいざとなれば納品後でも対応できるレベルといえます。
機械を使って行う本体の外装クリーニングは現場では難しいかもしれませんが、アクションや鍵盤は車に載せて持ち帰って修理することが可能です。その他の調整、清掃作業などもその場で処理できる内容です。
※もちろん購入後に余計な出費が伴いますので上記の内容は購入時にきちんとチェックしましょう!
ぜひ最初からメンテナンスとクリーニングがきちんと完了した中古ピアノをお買い求め下さい。
ではお客様にとって(そして我々調律師にとって)最も厄介で納品後にトラブルとなり得る問題とは何か。
それは響板割れと駒割れと呼ばれる症状です。
このピアノをうっかり購入すると最悪の場合あなたが高額な修理費と運送費まで負担する羽目に・・・。
(アクションや鍵盤の修理とは異なりピアノ本体を工房に移動しなければ困難な修復となります)
この注意すべき「響板割れ」と「駒割れ」について、新品中古、両方のピアノ内部画像をご覧頂きましょう。
(そう、新品といえど必ずしも安心とは言い切れないのです!)
中古ピアノは危険?
乾燥した部屋に放置したことが原因で響板が割れてしまったグランドピアノをユーザーの依頼でオーバーホールするところです。
響板割れが問題となるのは特定の音を弾いたとき割れ目が振動して
“ビリビリッ”とか“シャーン”と嫌な雑音が発生する場合です。
修復手順としては、一度弦を外して鉄骨フレームを持ち上げて割れた箇所を響板と同じスプルース材で埋め木、またフレームを収めて弦を張り直す・・・と非常に手間のかかる作業になります。調律、調整以前に楽器として根本的な問題であるためピアノを選ばれる方にとっては最低限の確認ポイントといっても過言ではありません。
たとえ古くとも響板がすこぶる健常だったピアノも紹介しましょう。右下の画像は80年は経っているブリュートナー(ドイツの老舗メーカー)の弦を交換修理したときのもの。ヴィンテージ感のある枯淡の響きは新品ピアノが直ぐには出しえない味わいがあります。その熟成した音が好きで敢えて中古ピアノを求めるお客様も中にはいらっしゃいますが、本当に良い楽器を手に入れるには見極める訓練が必要です。
グランドピアノの場合は屋根を上げて譜面台を外したら弦の合間から響板の状態を確認することが出来ます。アップライトピアノの場合はパネルやアクションを取り外して中を覗くか、もしくは背面からも確認が可能です。気になるピアノがあれば「響板を見せて下さい」と店員に一声かけましょう。
新品ピアノは安全?
右上の画像は某国で製造されたアップライトピアノの新品ですが弦の振動を響板に伝える役割を果たす駒が割れています。低い音域を弾いたときに金属的な雑音が混じっていたので下のパネルを開けて調べたところ激しい亀裂が・・・。こうしたケースは稀かもしれませんが新品であっても木材を使用する以上絶対に安全とは断言できない事実を心に留めて下さい。(本来あってはならないことですが)
ご心配な方は響板に加えて駒も一緒に点検した方が無難でしょう。
以前「ピアノの外観よりも内部のアクションや木材を一台ずつ比較して観察する方が好きなんだ」と話されたお客様がいました。世界にひとつとして同じ木目はないのでそうした愉しみ方も面白いですよね。
右下の画像はペトロフ(中東欧チェコの老舗メーカー)の新品ピアノの響板。創業者のサインらしき?ロゴが見えます。メーカーごとに特徴あるデザインが描かれていますので積極的に中を覗いてみましょう。
※納品後すぐ割れに気づいたユーザーが販売店にクレームしたところユーザー自身の温度湿度管理に責任を転嫁されたという悪質な事例も聞きます。その意味では“お店選び”も慎重にご検討下さい。
まずは「好き嫌い」ありき。でも「良し悪し」を見抜くことも大切!
人間と同様に「老い」も「若き」もそれぞれに一長一短あるものです。
ただし好き嫌いと良し悪しは別物。ピアノ購入時には両方の視点を持ち合わせる必要があります。
すでにお分かりかと思いますが、“新品”と“中古”というカテゴリーではピアノの優劣はつけられません。
1台1台に出来不出来がありますし、買い手売り手の「好き嫌い」といった感情も多分に含まれるからです。
しかし楽器の“良し悪し”については答えがハッキリしています。
いくら音やタッチが気に入って購入したピアノでも、楽器本体に重大な欠陥があっては本末転倒ですよね。
そのリスクを回避するためには何よりお客様ご自身がピアノの内面をじっくり観察する意識をもつこと!
品質が粗悪な楽器を見抜く目を自ら養うことも、間違いの無いピアノ選びには不可欠なのです。
☆POINT
「他人の言葉やカタログに書かれている内容はあくまで参考程度に。
新品中古にとらわれず、己の目と耳を鍛えて楽器の本質に迫りましょう」
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